七、
松明の灯りを頼りに、堀川沿いに六条へと下っていく。十日の月は細くて心許ない。
また、先導をする男の歩調が速く、小しのは付いていくのに精一杯だった。
体格に差があるのだから、歩幅にも気をまわして欲しい。
「…明加里が」
肩で息を切らしている小しのに、男が声をかけた。
そっと、「話すことができたのか」と思ったが口には出さなかった。
「久方振りに『人』に気を許した。大した用が無くとも、邸に顔を出すと良い」
明加里からはいいようにからかわれていた覚えしかないのだが、そういうものなのだろうか。
男から松明を受け取り、縦に一つ頷いた。
松脂の匂いが鼻についた。
「小しのちゃん?」
名を呼ばれ、声のした方へ目を向けると、小ゐとという名の一座の姉分が脇門から顔を覗かせていた。
手燭を持っていることから、小しのを探しに行こうとしていたようだ。
「おかえり。遅かったね」
急ぎ、女子の声を作り小ゐとへ返した。
「ごめんなさい。でも、この人に送ってもらった…」
「え?」
小ゐとは手を頬に添え、困ったような笑顔を浮かべた。
その様子に小しのが振り返れば、男の姿は影も形も無くなっていた。
「あれ…?」
「まぁ、とにかく、早くおあがりなさいな。お頭がカンカンだよ」
「うわ…」
お頭――葛緒(つづらお)は一座を束ね、また小しのと母を拾ってくれた恩人でもある。
元は一座きっての役者でもあった為、整った容貌を持ち、また気風の良さから一座の娘たちからも慕われている。
しかし、いかんせん、説教が長い。
夜が明ける前に解放されることを望みながら、小しのは今宵の宿である邸へと足を踏み入れた。