むかしむかしのそのまたむかし

戦乱の日々が続くようになってから、どれくらいの年月が流れたのでしょう。
この頃になると、以前はばらばらに争っていた人達も、親族(うからやから)で集まり、いくつかの部族同士で争うようになっていました。
しかし、相も変わらず、あっちでもこっちでも、戦によって多くの命が犠牲になりました。

この様な日々がいつまで続くのか…
それは神様にもわかりませんでした。
ですが、それでも何もせずにただ見守り続けておいででした。

 *

いい加減、戦続きの毎日に飽きた一人の少年がいました。
少年は、とある部族の長を務める者の息子でした。

成人の儀式を迎えるには当分先なので、戦には参加しませんが、身を守る為に甲冑を身に着けていました。
甲冑は少年にはまだ少し大きく、不釣合いに見えました。

なんだかちぐはぐに見える理由はもう一つあります。

少年の背では、小さな赤ちゃんがすやすやと眠っていました。
赤ちゃんは、少年と年の離れた末っ子の弟でした。

この小さな弟が生まれた時、少年はとても嬉しくなりました。
小さないきものは小さな手をうんと伸ばして、お母さんを探します。
少年は、お母さんに抱かれた弟の頬を指でつつきました。
とても柔らかくてお餅みたいだと思いました。
弟が兄の指を不思議そうに掴みます。
自分の爪の大きさにも満たない、小さな小さな指を見て、こんなに小さくても呼吸をして「生きている」んだと、胸がきゅうとなりました。

  そして、この小さな手もいつか大きくなって、戦に加わるようになるのか…

そう思い至ったとき、全身の力がすとんと抜けてしまいました。

何故、この子が、人を殺すようにならなければいけないのだろう。

少年は、大人達の行動が急に馬鹿らしく見えてきました。


ある日、少年は小さな弟を背負い、こっそりと屋形を抜け出しました。