むかしむかしのそのまたむかし

女の人は加夜古(カヤコ)という名前でした。

年も少年より1つだけ上ということで、大人びて見えるのは「お母さん」だからなのかなと、彼女に向かって言うと、加夜古は数回瞬きをしてから、恥ずかしそうに顔を袖で隠してしまいました。
そのような仕草を見ると、年相応の女の子に見えます。

加夜古の赤ちゃんは美苑(ミソノ)という名前の…そう、女の子でした。
男の子だと思っていた、と少年が正直に言うと、今度は声を立てて大笑いをしました。

「お腹にいるときも、男(おのこ)だと思っていました」

笑いながら、加夜古が苦しそうに教えてくれました。

こんな笑い方もするのかと、少年は感心してしまいました。

加夜古の部族は、一所に土地を決めずに各地を回る珍しい族でした。
ご先祖様が土地争いに嫌気が差し、戦を避けるように放浪が始まったとのことです。
しかし、先頃の戦に巻き込まれてしまい、部族の人達とは離れ離れになり、加夜古と美苑の二人だけになってしまったことを教えてくれました。

もう、美苑のお父さんも生きてはいないだろうということも…

加夜古は辛い話であるにもかかわらず、背筋をしゃんと伸ばして、真っ直ぐ少年の目を見て語りました。
年が一つしか変わらないのに、こんなにしっかりしている目の前の女の子を、少年は心の底から強い子だと思いました。


強い子、ではあるのですが、加夜古は少し…かなり…不器用でした。
火を熾そうと火打ち石を使うと手を挟み、手を洗おうと川辺に行くと頭から落ち、縫い物をしようと針を手にすると…予想を裏切らずに、その指に針を突き刺しました。
加夜古は申し分けなさそうにしていましたが、そんな様子を見て少年は自分が頑張ろうと思いました。

行動を共にすることで、いつしか一緒に泣いたり笑ったりするのが当たり前のようになりました。
偶には言い争いもしましたが、やはり、笑っている時間が一番多いのでした。

「日生」

ヒナセ。それが少年の名前でした。
お日さまの名を抱く彼が笑うと、加夜古の胸の中もぽかぽかしました。

「晴海が…」

ハルミ。それが日生の弟の名前でした。
加夜古は晴海も美苑も分け隔てなく慈しんでいました。

日生は加夜古が楽しそうに笑うと、年上の娘さんには失礼かもしれませんが、とても可愛いと思いました。
今もきらきら可愛らしい笑顔で日生の名を呼びます。

「晴海が立派なう○ちをしました!」

それは報告しなくていい、と日生は思いました。