むかしむかしのそのまたむかし

亡くなった人や動物の魂が、まっすぐ夜見ノ国へ逝けずに迷子になると、まだ生きている人の体を奪おうとする「荒魂(あらみたま)」になってしまいます。
死者が迷子にならないよう、夜見ノ国へ導く力を持つ人達が加夜古の部族でした。
この力のこともあるので、他の部族には知られないように、見つからないようにと各地を回っていたのでした。

その様子から、いつしか『隠(コモリ)の一族』と呼ばれるようになりました。

もっとも、一族で残っているのは加夜古と美苑の二人だけですが…

兵士の手当てをしながら、そう、日生に話しました。
薬が効いているのか、兵士は眠りについていた為、この話を聞いているのは日生だけでした。
晴海と美苑は、まだ難しい話は理解できないので、日生の膝の上で窮屈そうにしていました。

そんな大切なことを、自分に話してよかったのかと日生は訊ねました。
加夜古は微笑みを返すだけでした。

戦でどんどん人が死んでいくのに、夜見ノ国へ導いてくれるのは加夜古一人。
危険なのは、戦場や森の獣だけではないと知ると、日生は空恐ろしくなってしまいました。
顔が引きつっているのが自分でもわかります。

彼の様子を見て、加夜古は申し訳なさそうに、うつむいてしまいました。

赤ちゃん達は、二人の心境を知ってか知らずか、ただ無邪気にはしゃぐだけでした。