むかしむかしのそのまたむかし

豊成が生まれた土地が見渡せる所に出ました。

そこには村があったことなど判らない程に穏やかな風景が広がっていました。
戦があったことなど判らない程に。

豊成は何も話さず、じっと、村があったこの土地を見つめ続けるのでした。


下まで降りてみると、家が建っていたのであろう石組みや、土に還りきれなかった骨などが目に入りました。

小川の側に生えている大きな木の蔭で休むことにしました。
日生と加夜古が赤ちゃん達をそれぞれ肩や腕から下ろして一息つきました。
それを見守っていた豊成が、少しだけ失礼します、と断って席を外しました。

木からはそれほど離れていない所で、突然、豊成はしゃがみこんでしまいました。
様子がおかしいと思った日生が、慌てて豊成の元へ駆け寄ります。

豊成は骨を拾っていました。
付いた泥を払いながら、一つずつ、丁寧に、丁寧に。

日生は横に付いて、豊成を手伝いました。

獣に食い散らかされてしまったものもあるのでしょう。
それが人の形として残っているものなどほぼありませんでした。
それでも、ゆっくりと丁寧に拾い集めました。

「ここで暮らしてみるのはどうですか?」

豊成が口を開きました。

「この通り何も無い所ですが。だからこそ、見つかりにくいというか…」
「しばらく様子を見て、大丈夫そうだったら、でもいいか?」

そう、日生が答えました。

豊成が久し振りに笑ってくれました。